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「北欧、暮らしの道具店」が考える、D2Cの継続と成長に必要なこと

“D2C”や“サブスクリプション”等のビジネスモデルの変化に合わせ、昨今では通販ビジネスの戦略やあり方にも進化が求められている。 一方で、新しい概念への理解が浅いばかりに既存の手法から脱却できず、新しい手法に挑戦できないなど、変化に対応できていない企業も未だ多く存在している。 これらの背景を踏まえ、ECのミカタではD2CブランドとD2C支援企業の対談連載記事をお送りする。上記課題を払拭し、より多くの企業がビジネスをアップデートできる事例や生の情報をお伺いする。 連載第7回目では、北欧雑貨を販売する一方で、多彩なコンテンツを配信するメディアとしての顔を持つ唯一無二のD2Cサービス「北欧、暮らしの道具店」。同店を運営する株式会社クラシコムの代表取締役 青木耕平氏に、D2Cを事業として継続させるために意識していることを聞いた。 その独特でありながらも示唆に富んだ方法論は、サステナブルな運営を目指す事業者にとって大いに参考になるだろう。ファシリテーターは、自社開発のSaaSツールで多くのD2Cブランドの成長をサポートしているアライドアーキテクツ株式会社 取締役の村岡弥真人氏だ。

軸があるから“偶発的な”成功が生まれる

村岡: まずはクラシコムさんが手がけている事業を教えてください。

青木: もともとは北欧のヴィンテージ食器などを販売していましたが、それに加えてアパレル、コスメ、コンテンツなど、目の前のお客様が求めていそうなものを提供してきました。

自分たちでは当社の事業のことを「ライフカルチャープラットフォーム」と呼び、「フィットする暮らし、作ろう」というテーマを掲げています。当社の商品購入やコンテンツ視聴を通して、お客様にとってよりフィットする暮らしにつながってほしいと考えています。

村岡: 映画・ドラマ『青葉家のテーブル』を制作したのも、お客様のニーズがあったから企画されたのですか?

青木: ユーザーアンケートの結果などから潜在的なニーズは感じていました。ですが、「ニーズがあるから映画を作ろう」とは普通なりませんよね(笑)。

もともとWEBのCMを作ろうと考えて制作会社さんと打ち合わせていた時に、向こうから「ドラマを作ってみませんか?」と提案がありました。これは私の想像の斜め上をいくオファーで、面白い企画が来たと思いました。予算の範囲内でやれば、経営上のリスクもないので、ダメもとで挑戦することにしました。

どちらかといえば、これまではインフォメーションやコミュニケーションという形でお客様とつながっていたところに、また新しい形が生まれました。その後、ラジオなどさまざまなメディアを展開し、プラットフォーマーであり、パブリッシャーでもある“プラティッシャー”という方向に進んでいきました。

村岡: クラシコムさんのようにここまで幅広くコンテンツを持っている会社は他にないと思います。「北欧、暮らしの道具店」のことをショップと見る人もいるし、メディアと見ている人もいます。お客様との最初のタッチポイントによって、認識のされ方がかなり違っていて、これが結果的にビジネスのリスクヘッジになっています。

ドラマや映画は、お客様のライフスタイルを拡張していくことを狙って企画されたのだと思っていましたが、偶然だったとは驚きです。

青木: まったくの偶然ですね(笑)。私はピーター・ドラッカーの「イノベーションのための7つの種」という言葉が好きなのですが、彼はその中で最も大きいのが「予期せぬ成功」だとしています。

ドラマはまさにそれに当てはまります。制作の発注時にひとつだけお願いしたことがあって、それは「全工程に同席させてもらう」ことです。そうすることでキャスティングや各工程の費用感、そして課題が見えてきて、その企画をサステナブルに継続させるためにはどうすれば良いかが分かります。

こんな感じでいろいろなことに手を出していますが、もちろんうまくいかないことも多いです。ただ、予想外に伸びてきたチャネルについては、単体の収支を合わせるだけでなく、それは自分たちの本質的な課題とどう関係するものなのか、ということを考えています。

村岡: 偶発的に見えるものが結果的に利益を生む、というのはただのラッキーにも見えますが、ブレない軸を持って意思決定して、お客様に受け入れられるための環境を整える。これは多くのグロースしているD2Cブランドにも共通している、本質的なことだと思います。

新規事業のコツは、動機を持つ人材と経営に響かない投資

村岡: 収益化が計算しにくいプロジェクトにGOサインを出す判断基準はありますか?

青木: 「そのプロジェクトを自らノッて実行できる社員がいるか」ですね。動機を持った人間がまず必要で、それはお金や機会よりも重要だと考えています。

村岡: 創業直後のD2Cベンチャーで、お金にならないことを愚直にやられている会社は多いです。そこに再現性はないかもしれませんが、それについてくる仲間やファンがいれば、その施策はきっとグロースするでしょう。

青木: その通りだと思います。新しいことを始める時のKPIはフェーズによって変わります。最初の入り口は自分たちが喜ぶ、そこからお客様を喜ばせるようになって、最後に収支を合わせて経営者を喜ばせる。この流れですね。

村岡: 青木さんご自身はSNSもアプリも立ち上げ前には期待していなかったとお聞きしました。それでもスタートしようと判断された時に、どれくらいのリソースを投入するか。この基準はありますか?

青木: 経営に影響のない範囲の投資で実施するようにしています。相場観は実際にアクションを起こさないと見えてきません。もし仮にうまくいかなかっとしても「ウチに向かないことが分かった」という成果が得られます。

逆に勝ち目がないな、と判断したらすぐにストップするようにしています。例えばドラマなら、1話目がうまくいったから次の回を制作しました。全話をまとめて作れば費用は割安になるかもしれませんが、それでも1話ずつ作るようにしました。コストを抑えることよりも、計画値の範囲内で続ける/終わることが重要です。なので当社は「社運をかけたチャレンジ」はやったことがないですね。

村岡: 確かにポートフォリオを広げていくのは有効ですよね。新しいプロダクトを出す時に、それを支える別の収益があると強いです。

ちなみにこういう考え方は非言語的に形成されるもので、青木さんだけでなく社員の皆さんとも目線を合わせないといけないと思うのですが、クラシコムさんではどのようにしていますか?

青木: 「自分たちが何者か?」というマインドや判断基準は時間をかけて形成されます。そのためにできるだけ言語化する機会を増やすべく、どのレイヤーでも振り返りのミーティングを頻繁に実施しています。自分たちが今やったことを言葉にし続けることは、カルチャーの維持につながっていると思います。

アセットを積み上げて顧客とのフェアな関係を築く

村岡: お客様とさまざまなコンテンツやサービスでつながっていますが、お客様とクラシコムさんの「理想の関係」をどのように考えていますか?

青木: 一言でいえば「フェアである」ことです。私はファンという言葉は使いません。「どんなことがあっても好きでいてくれる」というニュアンスを含んでいるからです。

買い物をしてくれたり、コンテンツを見てくれたりという行動は、当社がお客様のニーズを満たしているから実現できています。逆に失敗すれば、お客様のニーズを満たせず離れてしまうでしょう。一方でお客様は、当社の商品・サービス・コンテンツに対して対価を提供する。それがフェアな関係性です。

村岡: フェアな関係を目指すうえで、社内において徹底されていることはありますか?

青木: リソースのギリギリまで頑張ることです。逆にそのラインを超えてしまうことはフェアではありません。

新規事業は自ら手を挙げた人に進めてもらいますが、決められた資源投入に対して得られるリターンをあらかじめ仮説立てしているので、想定以上のリソースを割かないことを徹底しています。仮にその担当者の能力がたまたま高かったり、限界を超えて頑張ったがために成功してしまうと、それは再現性がなく持続できる事業にはなりません。

「フェアなラインがどこまでか」を定めるのは経営側のひとつの役割で、社員にはそのラインの手前まで最善を尽くし続けるようにお願いしています。仕事が期限に間に合わなさそうなら早めに伝えてもらって、リスケするようにしています。

私は会社の活動のうち本当に必要なものは全体の2割くらいしかないと思っています。ラインを引くことは、その2割にフォーカスしていくことになります。結果的に雑な仕事を防ぐことにもつながり、精緻なクリエイティブ制作に時間をかけられる体制が整っています。

村岡: 本業にしっかりとリソースを投入して、余裕が生まれたら新しい事業に着手するということですね。

青木: リソースは常に有限なので、持続可能な事業に力を入れるようにしています。持続可能性が証明されていないものは、いつやめてもいい状態で検証を続けます。そういった業務はアウトソースすることが多いですね。

村岡: 持続可能という観点でいえば、最もサステナブルなのは、自分たちのアセットをしっかりと作り続けている会社です。ここでいうアセットは、お客様に対してどんな価値を提供していくか、という視点から生まれるものです。

例えばアフィリエイト比率が9割を超える会社があったとしたら、それは持続可能じゃないですよね。行動量を増やして拡大を急ぐことは、裏を返せばそういうリスクを取ることでもあります。中長期の売上創出を意識した方が、結果的にD2Cの事業者は成長できると思います。

青木: 当社ではWEB広告はアプリをはじめとするプラットフォームの増強や、SNSなどのコンテンツに対してしか使っていません。直近の売上を作るために全額マーケティング費用に投下するのではなく、自社のアセットに一部でも投資できれば、それは良い循環につながります。

論理的にはCPAやLTVを見るのはいいことかもしれませんが、想定された売上を取りきるまでの未来に事業が継続しているかは分かりません。

村岡: 確かにLTVを形成する中身は重要です。ですが、市場にそのプロダクトしかないから選ばれているのと、複数のプロダクトの中から選ばれているのはぜんぜん違います。そのために、クラシコムさんも継続のためにさまざまな投資をされていると思います。

青木: いやいや、このままいったら継続しなさそうなことばっかりですよ(笑)。どこまでいっても「これで大丈夫」という状態にはなりません。ほとんどは押し寄せてくる課題に対して選択をする連続の中で、たまに「次の道につながった」という瞬間がある、そんな感覚ですね。

変わらぬ商品・サービスを提供し続けるために

村岡: 中長期的な視点でのお客様とのフェアな関係性づくりのために、クラシコムさんではどのようなことを考えていますか?

青木: 事業のフェーズによって求められる体制を整えられるように努力しています。D2Cのビジネスは、売上のグロースに合わせて人とモノを動かさなければなりません。生産体制を強化したり、物流を改善したりと、増えた需要分に対して供給するためのサプライチェーンが必要です。

当社はセレクトショップから始めて、現在ではオリジナル商品も作っていますが、それは利益率を高めるためにやっているのではなく、お客様の増えた需要に応えられるだけの商品がなかったからです。

年商10億円くらいまではスムーズにできても、それ以降が厳しいところ。そこまでは汎用的な“ありもの”でまかなえるからです。今年は大丈夫だったとしても、翌年の成長のためには人やモノが不足している、そんなケースがほとんどです。

村岡: 確かに10億円あたりでの大きなハードルってありますよね。マーケットを見ても、そこを突き抜けていく会社がある一方で、大手企業にバイアウトする会社も増えてきました。

青木: 目指す成長曲線を維持するために、毎年新しい課題が現れます。同じ「商品出荷」という結果でも、必要な設備は変わります。同じサービスを提供し続けることだけでも、規模が大きくなると難しくなってきます。商品もコンテンツも、質と量の両面でのクオリティが求められるようになってきますよね。

村岡: 「サービス」「プロダクト」「ブランド」という概念のうち、成長するにつれて「ブランド」として、より周囲に認識されるようになります。お客様はブランドを見ているので、当たり前のようにサービス拡充、プロダクトのアップデートを求められます。

同じモノを同じように提供し続けること=安泰ではありません。自社についてお客様がどう感じているかをキャッチアップし続けることが大事だと思います。

青木: その通りですね。当たり前のことを成長しても続けるために、皆さん苦労されていると思います。クラシコムではそれを実現するために、先述の文化や制度を設けています。

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